COVID-19関連追加(202046日)

【重症COVID-19患者に対する回復者血清による治療】

Preliminary Communication

Shen C, et al. Treatment of 5 Critically Ill Patients With COVID-19 With Convalescent Plasma. JAMA 2020 Mar 27. doi: 10.1001/jama.2020.4783.

中国からの報告.ARDSを発症した重症COVID-19患者5uncontroled case series

回復者血清は1:1000以上(end pointでの希釈抗体価)(ELISA法)のSARS-CoV-2特異抗体(IgG)と40以上(end pointでの希釈抗体価)の中和抗体を含む.回復者血清はすでに回復した患者5例から抽出した.

アウトカムは,血清投与前後における体温,SOFAスコア(Sequential Organ Failure Assessment)(0-24,ハイスコアは重症),PAO2/FIO2比,ウイルス量,抗体価,routine blood biochemical indexARDS,人工呼吸器,ECMOとした.

 

患者5例(36-65歳.女性2名)は,いずれも回復者血清を投与された時点で人工呼吸器管理,抗ウイルス薬およびメチルプレドニゾロンの投与を受けていた.回復者血清の中の投与1日前に抗体価を測定し,ABO血液型が適合した血清を2回連続して投与した(1200-250ml,合計400ml).血清投与はドナーから抽出した同日に行った.そして抗ウイルス薬(ロピナビル/リトナビル,インターフェロンα-1barbidoldarunavirPatient 1Patient 4はファビピラビルを投与していた)はウイルス量が陰性化するまで継続した.ドナー5例は18~60歳でCOVID-19既感染者である.PCR検査は陰性かつ少なくとも10日間は無症状で,血清中の特異抗体は1:1000以上,中和抗体は40以上.そして400mlの血清を各々ドナーからアフェレーシスにより抽出し,血清は速やかに同日レシピエントに投与した(入院後10~22日に投与).かつ結果はFigureを参照.体温は4/5例が3日以内に正常化した(Figure D).SOFAスコアは低下し(Figure B),PAO2/FIO2比は12日以内に上昇した(投与前172-276 vs 投与後284-366).ウイルス量は12日以内に低下し陰性化した(Figure A).そしてELISA法の結果,SARS-CoV-2特異抗体および中和抗体の抗体価は上昇した(投与前40-60,投与7日目で80-3204例は投与後12日目にはARDSは改善し,3例は投与2週以内で人工呼吸器のウイーニングが行えた.3/5例は退院できた(入院期間はそれぞれ53日,51日,55日).2例は投与37日で入院中だが安定している.

Discussion

以前より回復者血清を用いた感染症治療は行われてきた.SARSに対する回復者血清治療はステロイド治療に比べ,発症22日までに高い退院率(73.4% vs 19.0%),低い致死率(0% vs 23.8%)を示した報告がある1).またインフルエンザA型(H1N1)患者において回復者血清治療はコントロール群に比べ,死亡例を減少させた(20% vs 54.8%2)

血清の自然な活性を保つため,ドナーから得た血清は同日にレシピエントに投与した.ウイルス量は重症度と進行度と相関することが知られている3).この検討では全例抗ウイルス治療をしていても少なくとも10日間はSARS-CoV-2が認められたが,血清投与後に速やかにウイルス量は低下し検出されなくなった.そして血清投与後はレシピエント5例において,ウイルスの増殖を抑制する中和抗体が増加していた.この結果は,回復者血清から得た抗体がウイルス排出と症状の改善に寄与した可能性を示している.

1) Mair-Jenkins J, et al. The effectiveness of convalescent plasma and hyperimmune immunoglobulin for the treatment of severe acute respiratory infections of viral etiology: a systematic review and exploratory meta-analysis. J Infect Dis 2015; 211(1): 80-90.

2) Hung IF, et al. Convalescent plasma treatment reduced mortality in patients with severe pandemic influenza A (H1N1) 2009 virus infection. Clin Infect Dis 2011; 52(4): 447-456.

3) Ng KT, et al. Viral load and sequence analysis reveal the symptom severity, diversity, and transmission clusters of rhinovirus infections Clin Infect Dis 2018; 67(2): 261-268.

 

 

 

COVID-19関連追加(202046日)に627日追記しました

COVID-19と戦う抗体は時間を遡る】

Newsviews.

Gary R. Whittaker Susan Daniel. Going back in time for an antibody to fight COVID-19. Nature. 2020.

https://doi.org/10.1038/d41586-020-01816-5.

 

COVID-19の治療薬として抗体を活用しようとする取り組みが活発化している.SARSの原因となったコロナウイルス感染の既往がある人から作られた抗体から得られる知見を明らかにする.

 

COVID-19パンデミックは100年に一度の最大の公衆衛生危機であり,SARS-CoV-2と闘うための医療介入開発は最優先事項である.Nature誌に掲載されたPintoらの論文は1),抗体免疫療法の発展分野において,このような取り組みのための重要な第一歩を踏み出すために必要なエビデンスを提供している.

SARS-CoV-2への曝露および感染に対する免疫防御について議論されている.このような感染に対する免疫応答の主要な目的の1つは,ウイルスを認識する抗体を作ることである.特に注目されているのは,スパイクプロテインとして知られるウイルス表面の蛋白質に結合する抗体である.コロナウイルスの名前は,これらのタンパク質に起因する,特徴的な“冠状”のウイルスのシルエットがその由来である.

ウイルスの“スパイク”を認識し,それに結合する抗体は,ヒト細胞上のACE2受容体に対するウイルスの結合をブロックすることができる.よってスパイクプロテインの機能を阻害することができる抗体は,感染を遮断することができる.このような抗体は,“中和抗体neutralizing antibodies”と呼ばれる.

SARS-CoV-2に対する免疫応答については,多くのことがわかっていない.それにもかかわらず,COVID-19から回復した人々の血液中の血清から採取した抗体を,COVID-19患者投与する治療に応用できることが明らかになりつつある.このような“回復者血清convalescent sera”によるアプローチは,特に緊急的な治療の選択肢として,非常に魅力的です。それは,薬剤やワクチンのような従来の治療は,当面の間いは利用できそうにないからだ.回復者血清を使うより高度なアプローチは,COVID-19や他のコロナウイルス感染症に罹患した人の血液から採取したB細胞(抗体を産生する)を操作することであるB細胞はある特徴的な抗体を作るため,そのB細胞のクローンを使用して,モノクローナル抗体として知られている特定の抗体のプールを生成することができる

Pintoらは,“時間を遡って”,SARS-CoVに感染した人から採取したB細胞のサンプルに注目した.このウイルスはSARS-CoV-2に似たウイルスで,2003年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスである.このアプローチは,2つのウイルスが似ていることから,SARS-CoVを認識する抗体がSARS-CoV-2を認識して中和するのではないかと期待されている

スパイクプロテインの“head”,すなわち受容体結合ドメイン(RBD: receptor-binding domeinS1と呼ばれる)は,抗体が最も結合しやすい場所である.しかし,このドメインはダイナミックな状態で存在しており,糖質分子(carbohydrate molecules)の殻(shell)によって,免疫システムから“隠されている(masked)”のかどうかの議論がある.したがって,この領域を標的とする機能性抗体を同定することは簡単ではない.Pintoらは,2004年と2013年にSARSから回復した人から採取した血液から,SARS-CoV-2を認識できる抗体を探索した(Figure 1).彼らか検討した25種類のモノクローナル抗体のうち,4種類はSARS-CoVおよびSARS-CoV-2スパイクプロテインの両方の受容体結合ドメインを認識していたS309と呼ばれるある抗体は,in vitroにおいてこのドメインに高親和性をもって結合することが確認され,さらなる研究のために選択された.

Pintoらは,低温電子顕微鏡を用いることによって,S309抗体とSARS-CoV-2スパイクプロテインとの相互作用を可視化した.この結果,S309は,スパイクプロテインに存在する,糖質分子が付着している受容体結合ドメイン(RBDのアクセス可能な部位に結合していることが明らかになった.この領域は、ACE2に直接結合するキーとなる領域の一部ではない.S309が認識する部位は,SARS様コロナウイルスと類似性を有するコウモリコロナウイルスBetacoronavirus属B系統; Sarbecovirus亜属)の範囲にわたるスパイクプロテインにおいて保護されている.このような抗体が関連するウイルスに広く応用できる可能性があると考えられる.この抗体は,今後のCOVID-19パンデミックに対応する上で重要であるだけでなく,もし動物関連ウイルスがヒトに感染するようになった場合には,起こりうる動物関連ウイルスの流行を防止するために利用することが検討されるかもしれない.

結局のところ,COVID-19の強力な治療が単一の抗体に依存するとは考えにくい.むしろ,SARSと同様に,抗体カクテルにおける異なるモノクローナル抗体を組み合わせた相乗的なアプローチがより効果的かもしれない.このようなアプローチを勧めるためには,in vitro試験による効果的な中和抗体の検出が必要であり,抗体によって他の免疫応答をどれだけ活性化できるかを評価するin vivoのデータが必要となるだろう.

次のステップとしては,個々の抗体や抗体カクテルを動物モデルに用いて,それらが防御効果を発現できるかを検討し,ヒトの臨床試験で安全性と有効性を評価することである.この方法が加速すれば,抗体の検出からヒトでの概念実証試験までのタイムラグを56ヶ月に短縮できる可能性がある.

感染症に対する免疫療法の応用として,エボラウイルスとの戦いに関連したものがある.ワクチンや従来の低分子薬物試験と並行して,エボラウイルスに対するモノクローナル抗体療法の開発が急速に進んでいる.GPと呼ばれるエボラウイルスの重要なタンパク質の2つの重要な領域を標的とするZMappと呼ばれるものから始まった抗体のカクテルが開発されている.エボラウイルスに対する取り組みの進展は,SARS-CoV-2を標的とした同様の免疫療法の成果に希望を与えるものである.Pintoらの研究は,切望されていた成功に向けた大きな一歩となる.

 

Figure 1

Figure 1: An antibody that blocks coronavirus infections.

2003年にSARS-CoVに感染して後に回復した人によって作られた抗体を調べたことによって,Pinto1)は,COVID-19の原因となるSARS-CoV-2の感染をブロックするヒト抗体を発見した. a: SARS-CoVといったコロナウイルスはACE2に結合することによってヒト細胞に感染する.b: Pintoらは,2004年と2011年にSARSから回復した人から採取した血液サンプルを分析し,そのサンプルの免疫細胞によって作られた抗体を調べた.彼らは,SARS-CoVのスパイクプロテインに結合し,このウイルスによる感染を防ぐ抗体S309と命名)を同定したc: 著者らは,この抗体がSARS-CoV-2のスパイクプロテインの類似領域に結合し,ウイルスによる感染を防ぐことを発見した

 

 

1) Pinto, D. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-020-2349-y (2020).