COVID-19関連追加(202063日)

クルーズ船における感染拡大,換気不良空間における小飛沫エアロゾルの分析,論文2編.

 

【クルーズ船におけるCOVID-19感染拡大】

Ing AJ, et al. COVID-19: in the footsteps of Ernest Shckleton. Thorax. May 18, 2020.

doi: 10.1136/thoraxjnl-2020-215091.

英国探検家アーネスト・シャクルトンが1915-1917に航海したUshuaiaArgentinaを出発してSouth Georgia Islandまでのルートを辿る21日間のElephant Islandを含む南極半島遊覧航海が予定されたクルーズ船はWHOCOVID-19パンデミックを宣言した20203月中旬に出発した.乗客128人,乗務員95人全員は乗船前にCOVID-19の症状や体温をチェックされた当時感染が広がっていた中国,マカオ,香港,台湾,日本,韓国,イランに過去3週間訪れていた乗客はいなかった船のダイニングエリアを中心に手指衛生コーナーが多数設けられた

クルーズ船は次の7日間,Drake Passageを通過し,Danco IslandParadise Bay, Lemair’s PassageDeception Islandを来訪しつつ南極大陸を遊覧する計画だった.はじめの7日間,すべての乗客の体調は良好で体温も正常であったと船医2人から報告されたCOVID-19パンデミックを考慮し,day 3に新たにアナウンスされたinternational border controlによって遊覧終了の決定がなされ,行程が制限された.遊覧は南極のある地点で終了とし,day 14にはUshuaiaに戻るためチャーター便(飛行機)が用意する計画であった.よってSouth Georgia経由の遊覧は中止となった.

乗客にはじめて発熱者を認めたのはday 8であった.速やかにこの乗客は隔離され,全乗客の移動は客室に制限され,全員サージカルマスクの着用を義務付けられた.発熱者と接触する際にはフルPPEを着用し,客室内で乗客と接触する場合はN95マスクが装着された.乗務員は客室ドア付近で1日に3回食事を支給したが,客室内のサービスは行わなかった.Expedition sraffは食事支給の際に乗務員を手助けした.さらにday 10には乗務員3人,day 11には乗客2人,乗務員1人,day 12には乗客3人に発熱を認めた.

アルゼンチンはその境界を封鎖し,フォークランド諸島のStanleyにおける下船は拒否され,船はウルグアイのMontevideoに進み,day 13の夜に到着した(Figure 1).大部分の発熱者は対症療法によって改善し,Montevideoに到着した時には解熱していた.はじめに発熱した6人の乗客と乗務員に対して抗体検査(VivaDiag qSARS-CoV-2 IgM/IgG Rapid Test)を行った.ウルグアイ当局は乗客・乗務員全員にPCR検査を行うまでドックへの停留を拒否した.さらに3人の乗客,乗務員がday 14に発熱を認めたが,いずれも倦怠感はなく軽度の咳を認めるのみであった.しかしそのうちの1人,68歳男性(長期にわたる喫煙歴なし,既往歴なし)は症状が悪化し,day 17Montevideoの病院へ緊急搬送された.彼は気管内挿管され人工呼吸器管理となった.そしてCOVID-19 PCRが陽性であった.

全部で8人の乗客,乗務員がMontevideoの病院へ搬送され,いずれも進行性の呼吸不全を認めた.そのうちCOPDが基礎疾患の70歳女性はday 20に,基礎疾患のない65歳女性はday 21に,乗務員2人と乗客1人はday 22に搬送された.船医2人のうち1人は低酸素血症が認められ,day 27に病院へ搬送された.病院へ搬送されたすべての乗員,乗務員はCOVID-19 PCR陽性であった.

ウルグアイ保険省は43日(day 20; Atgen-Diagnostica, Montevideo)に存在するすべての乗客と乗務員にCOVID-19 PCRを行った.217人の乗客,乗務員のうち128人(59%)がPCR陽性であった(抗体検査が陰性であったすべての乗客も含んでいた)10例はPCR陽性者と陰性者が客室をシェアしていた.

128人(59%)がPCR陽性であったが,軽度の有症状者は16人(12.5%),病院へ搬送されたのは8人(6.2%),うち人工呼吸管理になったのが4人(3.1%),不幸にして死亡したのが1人(0.8%)であったPCR陽性者のうち24人のみが有症状であり(19%),残りの104人は無症状であった(81%

20203月中旬の出発から28日間,クルーズ船は他の場所において人との接触はなく,この意味では完全に隔離された環境であった.オーストラリアおよびニュージーランド国籍112人はday 28に,全ての乗客はday 32に,PCR検査が陽性・陰性問わず,本国に送還された.我々は以下の点を考察する:

クルーズ船におけるCOVID-19の有病率は非常に過小評価されるため,下船後にコミュニティに感染が広がるのを防ぐためにすべての乗客の評価とモニタリングが必要である

COVID-19の迅速抗体検査は急性期においては信頼性に乏しい

COVID-19例の多くは無症状であった(81%

・多くの客室におけるCOVID-19診断の不一致から,PCR検査には著明な偽陰性が存在するため,繰り返しの検査が必要である.

乗客の中にはday 24で発症した者もおり,客室内隔離にした後の感染(cross contamination)が考えられる

Figure 1

 

【換気不良空間における小飛沫エアロゾルとSARS-CoV-2感染伝播】

Somsen GA, et al. Small droplet aerosols in poorly ventilated spaces and SARS-CoV-2 transmission. Lancet Respir Med. May 27, 2020.

https://doi.org/10.1016/s2213-2600(20)30245-9.

1μm未満からおおよそ10μm径の小飛沫(small droplets)は発声あるいは咳によって発生し,ウイルス粒子を含む.そしてウイルスはエアロゾルの中で3時間は生存かつ感染性があると報告されている1).特にエアロゾル感染伝播におけるSARS-CoV-2感染の濃度反応関係(dose-response relationship)は明らかではないが,換気不良空間においてウイルス粒子を含むエアロゾルが,低い湿度および高い温度の環境と結びつくと,結果として長時間の感染力を持つ可能性がある.

今回我々は健常ボランティアに協力してもらって,咳や発生時に生じる飛沫を分析し,飛沫サイズによる分布浮遊距離と流速,そして換気状況における浮遊時間を調査した.

@Spray droplet measurement systemMalvern Spraytec, Malvern, UK)を使って飛沫サイズによる分布を分析した.発声では小飛沫のみ認められた.大飛沫は特に咳において認められたが,咳はどちらの飛沫も認められた.大飛沫:100-1000μm小飛沫:1-10μm

 

ASprayScanSpraying Systems, Glendale Heights, IL, USA)を使ってlaser sheetに飛沫を描出した.咳の始まりでは粒の流速は2-7 m/分であるが,可視できる大きな粒(500μm)は重力によって1秒以内に地面に落ちてしまうため,軌跡が下降線をたどり,遠くまで浮遊しない.一方5μmほどの小飛沫は160cmの高さ(発声や咳が生じる高さ)から発生すると,地面に落ちるまで9分かかるこの小飛沫はSARS-CoV-2のエアロゾル感染伝播と関連がある

また鼻腔から生じる飛沫は,通常呼吸においてはbackground noise level2.3 [SD 1.5]飛沫,そして鼻呼吸では2.6 [1.7]飛沫)を超えて検出されない.くしゃみからは鼻腔および口腔から生じる大飛沫が認められたが,持続されない.

BMedsprayEnschede, The Netherlands)によるspray nozzleを使って,換気がない部屋(◇)空調設備のみの部屋(〇)空調設備+ドアや窓が開放された部屋(△)に放出された小飛沫をカウントした.最も換気された部屋(△)では30秒で飛沫は半分量になったが,換気がない部屋(◇)では半分量になるまで約5分かかった換気不良の部屋(〇)では半分量になるまで1.4分かかった

 

我々の研究は健常ボランティアによるものでありCOVID-19患者を対象としていないが,研究による実証からマスクを使用することがウイルス伝播を防ぐことができることを示唆した(※訳者→サージカルマスクはおおむね5μmまでの粒子を防ぐことができる).ハイパフォーマンスマスク(サージカルマスク)は吸気時において,この研究が示したような小飛沫の30%を防ぐ効果があると報告されているし2),呼気時に効果はより顕著である3)

またこの研究は良く換気された部屋においては呼吸器飛沫の浮遊時間を減らすことができることを示した.公共施設の換気を良好にすることによってウイルスによる感染性のあるエアロゾルを薄め,排出することができるだろう.SARS-CoV-2感染拡大を抑えるために,ヘルスケアに携わる機関は可能な限り換気不良な公共機関のスペースを避ける推奨をするべきである

1) van Doremalen N, et al. Aerosol and surface stability of SARS-CoV-2 as compared with SARS-CoV-1. N Engl J Med 2020; 382: 1564-67.

2) Bowen LE. Does that face mask really protect you? Appl Biosaf 2010; 15: 67-71.

3) Leung NHL, et al. Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks. Nat Med 2020; 26: 676-80.