COVID-19関連追加(2020620日)

 

【無症候性COVID-19感染者の臨床像と免疫応答】

Long QX, et al. Clinical and immunological assessment of asymptomatic SARS-CoV-2 infections. Nature Medicine. June 18, 2020.

https://doi.org/10.1038/s41591-020-0965-6.

 

Abstract

無症候性COVID-19感染者の臨床的特徴と免疫反応については,十分に報告されていない.万州区において,鼻咽頭スワブによるRT-PCR SARS-CoV-2 感染と診断されたが,過去 14 日間および入院中に臨床症状を示さなかった無症候性患者37例を対象に検討した.無症候性患者は,政府指定の万州人民病院に入院し,政策に基づいて集中隔離された.無症候性患者群のウイルス排出期間はmedian 19日(IQR, 15-26日)であった.有症候性患者群と比較して,無症候性患者群はウイルス排出期間が有意に長かった(log-rank P= 0.028急性期において,有症候性患者群(median S/CO 20.5, IQR, 5.8-38.2)と比較して,無症候性患者群のウイルス特異的IgGレベルmedian S/CO, 3.4; IQR, 1.6-10.7は有意に低かったP= 0.005

無症候性患者群の93.3%(28/30),有症候性患者群の96.8%(30/31)のIgGレベルが早期回復期(退院後8週)に低下した無症候性患者群の81.1%(30/37),有症候性患者群の62.2%(23/37)の中和抗体レベルが早期回復期に低下した早期回復期において,無症候性患者の40%がIgG陰性となり,有症候性患者の12.9%がIgG陰性となった.さらに,無症候性患者では18種類の炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインのレベルが低かったこれらのデータは,無症候性患者はSARS-CoV-2感染に対する免疫応答が弱いことを示唆している.早期回復期におけるIgGおよび中和抗体レベルの低下は,免疫戦略や血清学的調査に影響を与えるかもしれない.

 

Main

2020524日時点で,SARS-CoV-2によるCOVID-19のパンデミックは,世界中で500万人以上が感染している.SARS-CoV-2に感染した患者のほとんどは,発熱,咳,息切れなどの症状を伴う軽度から重度の呼吸器症状を認めると報告されており,これらの症状は曝露後2-14日後に現れる可能性がある.しかし,RT-PCR検査で陽性と診断されても,無症状または最小限の症状しか示さない患者も存在する.無症状の患者が効率的にウイルスを拡散することを示すエビデンスは多く存在し,SARS-CoV-2のサイレントスプレッダー(silent spreader)が出現すると流行の抑制が困難になる.しかしながら,SARS-CoV-2感染の無症候性患者の臨床的特徴や免疫応答についての理解は限られている.我々は無症候性患者37例の疫学的および臨床的特徴,ウイルスレベル,免疫応答について検討した.

 

Results

Demographic characteristics:

PCR検査が陽性で,過去14日間および入院中に関連する臨床症状がなかった者として定義した無症候性患者37例を対象とした.2020410日以前に万州区でSARS-CoV-2感染が確認された患者は,CDCのサーベイランスシステムで追跡され,合計178例が確認された.無症候性患者の割合は20.8%37/178例)であった.

抗体検出およびサイトカイン測定のために,性別・年齢・頻度・併存疾患をマッチさせた軽症患者37例を抽出し,無症候性患者と比較した.またサイトカインの比較のため,万州区の性別・年齢・頻度をマッチさせたRT-PCRが陰性であった37例の対照者を抽出した.

37例の無症候性患者は,median 41歳(range, 8-75歳),22例が女性であった.RT-PCR COVID-19 が確認された患者との接触歴を有する者は28例で,武漢在住者または感染発症前に武漢への渡航歴があったものが9例であった.

 

Radiologic and laboratory findings:

無症候性患者37例のうち,リンパ球減少が3例,血小板減少症が1例であった.6例はALT値が上昇し,11例はCRPが上昇していた.

入院時の胸部CT検査では,無症候性患者11例(11/37, 29.7%)にfocal GGO10例(10/37, 27.0%)に線状陰影やびまん性のconsolidationを認めたが,16例(16/37, 43.2%)には異常は認められなかった(Figure 1).入院後5日以内に胸部CT上でfocal GGOや線状陰影を呈したのは5例であった.重篤な症状を呈する患者では典型的にみられる胸水,エアブロンコグラム,リンパ節腫大は認めなかった.片肺に限った放射線学的所見の異常は、無症候性患者の66.7%(14/21)は片側の陰影であったが,両側の陰影は33.3%(7/21)であった.

 

Fig. 1: Chest CT scans from two asymptomatic patients.

figure1

a, CT scan of a 45-year-old female showing focal ground-glass opacities in the lower lobe of the left lung (arrow). b, CT scan of a 50-year-old female showing ground-glass opacities and stripes coexisting in the lower lobe of the right lung (arrows).

 

Virological outcomes:

無症候性患者37例と有症候性患者37例の鼻咽頭スワブで最初に行ったRT-PCRサイクル閾値(Ct)値を比較した.無症候性患者37例と有症候性患者37例の最初のCt値は同様であった(ORF1b 32.8IQR, 30.9-35.8vs 31.7IQR, 30.3-35.1, P= 0.336; N 32.6IQR, 29.5-34.6vs 33.5IQR, 31.3-37.2, P= 0.126)(Figure 2a鼻咽頭スワブが最初に陽性となってから最後に陽性であった期間として定義したウイルス排出期間median 19日(IQR, 15-26日)であった.一方,軽度の有症候性患者ではウイルス排出期間はmedian 14日(IQR, 9-22日)であった.有症候性患者群に比べて,無症候性患者群ではウイルスの脱落期間が有意に長かったlog-rank P= 0.028)(図2b.しかし,測定可能なウイルス排出はウイルスの感染力とは一致しない.そして,培養可能なウイルスと相関するSARS-CoV-2ウイルス量を決定するためには,さらなる評価が必要である.

 

Fig. 2: Virological characteristics in asymptomatic and symptomatic cases.

figure2

a, The Ct values of ORF1b and N obtained with RT–PCR that were detected in nasopharyngeal swabs from asymptomatic (n=37) and symptomatic (n=37) groups. The box plots show the medians (middle line) and the first and third quartiles (boxes), whereas the whiskers show 1.5× the IQR above and below the box. Unpaired, two-sided Mann–Whitney U test P values are depicted in the plots, and the significant P value cutoff was set at 0.05. b, The Kaplan–Meier method was used to estimate the positive rate of viral RNA, and the two-sided log-rank test was applied to evaluate the significance difference of the duration of viral shedding in the symptomatic and asymptomatic groups. 

 

Virus-specific IgG and IgM in asymptomatic individuals:

SARS-CoV-2 感染に対する急性抗体反応を調べるために,無症候性患者と有症候性患者の血清中のウイルス特異的IgGIgMを測定した.曝露後約3-4週間で,無症候性患者群では81.1%(30/37人)がIgG陽性,有症候性患者群では83.8%(31/37人)がIgG陽性であった.さらに,無症候性患者群では62.2%(23/37)がIgM陽性であったのに対し,有症候性患者群では78.4%(29/37)がIgM陽性であった.興味深いことに,無症候性患者群(median S/CO 3.4; IQR, 1.6-10.7)に比べて,急性期(呼吸器検体中にウイルスRNAが検出される時期)のIgGレベルは,有症候性患者群(median S/CO 20.5,; IQR, 5.8-38.2)で有意に高値を示したP= 0.005)(Figure 3a

 

 

Fig. 3: IgG and IgM levels in the acute and convalescent phases in patients infected with SARS-CoV-2.

figure3

a, The comparison of virus-specific antibody levels in asymptomatic patients (n=37) and symptomatic patients (n=37) with acute infections. b, IgG levels in patients with convalescent-phase COVID-19 who were discharged from the hospital. c, Dynamic changes in virus-specific IgG levels in the acute and convalescent phases. d, Dynamic changes in neutralizing serum antibodies in the acute and convalescent phases. Results are expressed as the average of two independent experiments. e, IgG-positive proportions of patients with COVID-19 in the acute and convalescent phases. The box plots in a and b show the medians (middle line) and first and third quartiles (boxes), and the whiskers show 1.5× the IQR above and below the box. Unpaired, two-sided Mann–Whitney U test P values are depicted in the plots, and the significant P value cutoff was set at 0.05. 

 

また,無症候性患者37例と有症候性患者37例を早期回復期(退院後8週間)まで追跡調査した.早期回復期の有症候性患者群のIgGレベルは無症候性患者群よりも有意に高かった(P= 0.002)(Figure 3b).驚くべきことに,無症候性患者群の93.3%(28/30),有症候性患者群の96.8%(30/31)のIgGレベルが早期回復期に低下したFigure 3cIgGレベルの低下率は無症候性患者群でmedian 71.1%(range, 32.8-88.8%)であったのに対し,有症候性患者群ではmedian 76.2%(range, 10.9-96.2%)であった

また,疑似ウイルスを用いた中和アッセイ(pseudovirus-based neutralization assay)を用いたところ,無症候性患者群の81.1%(30/37),有症候性患者群の62.2%(23/37)の中和抗体レベルが早期回復期に低下し中和血清抗体レベルの低下率は,無症候性患者群ではmedian 8.3%(range, 0.5-22.8%)であったのに対し,有症候性患者群では11.7%(range, 2.3-41.1%)であったFigure 3d.また,無症候性患者群では40.0%(12/30人)がIgG陰性となったが、有症候性患者群では12.9%(4/31人)にとどまった(Figure 3e

 

Cytokines in asymptomatic individuals:

SARS-CoV-2感染に関連する免疫反応をさらに明らかにするために,血清サイトカインおよびケモカインレベルを無症候性患者群と有症候性患者群で比較した.無症候性患者群と比較して,18種類の炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの濃度の上昇有症候性患者群で観察された.これらのうち,tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligandTRAIL)(P= 3.39×10-14),macrophage colony-stimulating factorM-CSF)(P= 5.08×10-13),growth-regulated oncogene-αGRO-α)(P= 1.5×10-10),granulocyte colony-stimulating factorG-CSF)(P= 2.05×10-9),interleukin 6IL-6)(P6.33×10-9)が最も有意な変化を示した(Figure 4).さらに無症候性患者群と健常コントロール群37例を対象に,サイトカインをさらに解析した.32種類のサイトカインの血漿レベルは,健常コントロール群と無症候性患者群は同様であったStem cell factorSCF)(P= 1.48×10-9),IL-13P= 3.75×10-7),IL-12 p40P= 7.08×10-6),およびleukemia inhibitory factorLIF)(P= 1.33×10-3)は無症候性患者群において有意に高いレベルであった.これらのデータは,無症候性患者群では循環しているサイトカインおよびケモカインの濃度が低く,炎症反応が減退していることを示している

 

 

Fig. 4: Comparison of serum cytokine/chemokine concentrations between the asymptomatic and symptomatic groups.

figure4

Samples from asymptomatic (n=37) and symptomatic (n=37) patients with COVID-19 were collected in the acute phase during hospitalization, and assays were performed to measure the concentrations of 48 cytokines and chemokines. The box plots show the medians (middle line) and first and third quartiles (boxes), and the whiskers show 1.5× the IQR above and below the box. Unpaired, two-sided Mann–Whitney U test P values are depicted in the plots, and the significant P value cutoff was set at 0.001. 

 

Discussion

現在まで,SARS-CoV-2RNA排出期間は明らかではない.SARS-CoV RNAは,発症後4週間は,30%以上の患者において,咽頭,便,尿など様々な検体で検出可能であった.一方,MERS-CoV感染症では,呼吸器分泌物中のウイルス排出は少なくとも3週間持続した.最近,COVID-19の患者191例を対象とした研究では,ウイルス排出期間は,生存者でmedian 20日(range, 8-37日)であったと報告されている.また別の報告では,シンガポールの SARS-CoV-2 感染者 18 例において,鼻咽頭吸引液におけるウイルス排出期間が発症後,少なくとも24日間まで延長していた.本研究では,軽度の症状を有する37例におけるウイルス排出期間の中央値は14日であり,これは以前の報告よりも短かった.有症候性患者と比較して,無症候性患者ではウイルス排出期間が有意に長く,median 19日であった.しかし,ウイルスRNAの検出は必ずしも感染性ウイルスが呼吸器検体に存在することを意味しないため注意が必要である

感染後に免疫がどのくらいの強さで持続するのかは,「シールド免疫(遮蔽免疫)」 としてのキーとなる課題であり,フィジカルディスタンスを,いつ,どのように緩和するかを決定するための重要な問題である.これまでの研究では,SARS-CoVまたはMERS-CoVに対する循環している抗体は少なくとも1年間は持続することが示されている.また,SARS-CoV 感染後に, IgGレベルは2年以上維持されると報告されている.MERS-CoV 感染患者の抗体反応は,感染後少なくとも34ヵ月間持続する.最近のSARS-CoV-2 感染に対する獲得免疫応答についてのいくつかの研究では,COVID-19回復患者のほとんどが検出可能な中和抗体を有しており,これはウイルス特異的T細胞(virus-specific T cell)の数と相関していることが報告されている.この研究では,SARS-CoV-2感染から回復した患者の多くにおいて,IgGレベルと中和抗体が感染後2-3ヶ月以内に減少し始めることを示している.COVID-19に感染した8例の回復患者における中和抗体価の動態の別の解析では,4例が発症から約6-7週間後に中和抗体価の低下を示した.ある数理モデルでは,SARS-CoV-2感染後の免疫の持続期間が短いことも示唆されている.これらのデータを合わせると,COVID-19の「免疫のパスポート」を使用することはリスクがあり,公衆衛生上の介入の延長が必要になるかもしれない.抗体を介した免疫の持続期間を決定するためには,より多くの有症状あるいは無症状感染者を対象とした縦断的な血清学的研究が早急に必要である.さらに,血清陰性になる可能性の高い無症候性患者では抗ウイルスIgGレベルが低いことから,真の感染率を調べるための適切なタイミングにおける血清調査が必要である